仙台高等裁判所秋田支部 平成5年(ラ)23号 決定 1993年11月04日
抗告人 甲野春子 外1名
主文
原審判中、抗告人ら関係部分を取り消す。
本件を秋田家庭裁判所に差し戻す。
理由
一 本件抗告の趣旨は、主文同旨の裁判を求めるというのであり、その抗告の理由の要旨は、「抗告人らは、いずれも、平成5年4月2日、原審秋田家庭裁判所に被相続人丁山太郎の相続放棄の申述をしたが、同裁判所は、抗告人らの右相続放棄の申述が、いずれも、民法915条1項所定の熟慮期間経過後の申述であるとしてこれを却下した。しかしながら、原審の右熟慮期間に関する判断には誤りがあって原審判中、抗告人らに関する部分は失当であるから、本件抗告に及んだ。」というのである。
二 一件記録によれば、本件被相続人丁山太郎は、平成2年7月28日に死亡して相続(以下「本件相続」という。)が開始し、相続順位に従って抗告人らの父である丙川太一らの兄弟姉妹が共同相続したこと、その後、右太一は、本件相続の承認も放棄もしないまま平成4年11月9日死亡したため、その相続人である妻花子及び抗告人ら4人の子が共同相続し、本件相続についていわゆる再転相続が開始したこと、かくして、抗告人らは、いずれも平成5年4月2日原審裁判所に対して本件相続放棄の申述をしたところ、同裁判所は、抗告人らに対し、それぞれ本件相続放棄の申述について書面による事実照会を行った上、その各回答書に抗告人らが、いずれも「平成4年12月28日に自己のために本件相続の開始があった」旨記入して回答したことに基づき、抗告人らが、いずれも遅くとも平成4年12月28日にはそれぞれ自己のために本件相続の開始があったことを知っていたものと認定し、結局、抗告人らの本件相続の熟慮期間はその後3か月間の経過により満了したとの判断のもとに、平成5年5月17日、抗告人らの本件相続放棄の各申述をいずれも却下する審判をしたこと、以上の事実が認められる。
三 本件相続について、その相続人である亡丙川太一の死亡により、抗告人らについて再転相続が開始した場合の本件相続の熟慮期間は、民法916条の規定により、抗告人らが自己のために本件相続の開始があったことを知った時から起算することとなるから、原審裁判所が、抗告人らの前記照会回答書に基づいて前示判断をしたことは一応相当といわなければならない。
ところで、抗告人らは、いずれも当審において、「抗告人らは、本件被相続人太郎のことは殆ど知らないで育ったもので、同人の死亡後、その相続問題についての話題に接したこともなかった。平成5年3月24日に至って、実家の兄嫁の丙川桃子から、太郎の借金の件で亡父太一が訴えを起こされていることは聞いたが、その際にも、その内容について格別説明はなく、ただ、右太一の兄弟や子供達が相続放棄をすることにする旨説明されたので、その手続を実家に任せた。その後も詳しい事情を知らないでいたところ、原審裁判所から本件相続放棄についての照会書が送付されたのであるが、そのころ、右兄嫁から、亡父太一に対する右訴えの訴状を平成4年12月下旬に実家が受け取っていたことなどを知らされたので、右照会書の回答事項について正しく理解できないまま、その回答欄中にそれぞれ「平成4年12月28日」の日付けを記入したのであるが、抗告人らが抗告代理人に相談して、はじめて本件相続について自分達が被相続人太郎の相続人となったことを理解したのは、平成5年4月21日頃である。」旨主張するところ、抗告人ら及び申立外丙川桃子から提出のあった各陳述書には、いずれも右主張に副う記載がある。
そうすると、抗告人らは、原審裁判所の前記各照会書に対して回答する際に、その自己のために本件相続の開始のあったことを知った日についてこれを誤解して、真実は「平成5年4月21日頃」と記入すべきところを前記二項記載のとおり「平成4年12月28日」と記入したものと考える余地があって、この点の事実の如何によっては原判断と結論を異にする可能性があると認められるところ、右の抗告人らの主張事実の存否については、抗告人らに対する家庭裁判所調査官の事実調査等により、更に審理を尽くす必要があると認める。
四 よって、本件抗告は理由があるから、家事審判規則19条1項により原審判中、抗告人らに関する部分を取り消し、本件を秋田家庭裁判所に差し戻すこととして主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 武藤冬士己 裁判官 和田丈夫 佐藤明)